キャリアの途中でデータサイエンティストを目指す方へ何かアドバイスはありますか?
いまエンジニアの方が機械学習に参入するのは、僕の感覚だとハードルがすごく低いと勝手に思っています。ただし、データサイエンス領域はすごく幅広いです。仕事内容が統計学に寄るほど、エンジニアの興味ポイントとずれが生じるような気もします。データサイエンスのなかでも、例えば、統計モデリングよりは機械学習や深層学習、また機械学習工学といったもののほうがエンジニアの方が取り組む仕事としてはマッチしている気がします。
また、データサイエンスの就業機会はその技術領域的なハードな部分だけでなく、ソフト的な部分もピンキリといえるため危険な現場には注意したほうがよいと思います。運も強いとは思うのですが、いいチームの一員として働けるかどうかで経験の質がまったく変わりますし、その後のキャリアに及ぼす影響も大きいです。ですから、技術領域との相性は前提としつつも、それだけで安易に自分の時間を売らないことが重要だと思います。
非テクニカルな領域のアドバイスになってしまいますが、そういった目利きの部分を磨いたうえで、優秀なチームや人達のところに入って、うまく経歴として紹介できるポートフォリオを作ることが重要ではないでしょうか。やはり、優秀な人材の周辺は優秀です。入り口さへ掴めれば、一気に強みの領域や経験値をふやすことができると思います。
ちなみに、数学や学習理論などに固執しなければ、クラウド含め使いやすいライブラリが次々と提供されている状態ですから、エンジニアであればそれを使ったサービスの設計、実装、品質管理という観点から、開発にはあまり強くない系のデータサイエンティストを補完してくれれば、かなりのニーズがあると思います。
逆に僕たち分析系のデータサイエンティストはエンジニアリングの勝負になると負けてしまうので、そもそものビジネス課題の特定、ビジネス課題をデータサイエンス課題にマッピングする能力、モデリングや最適化技術、エンジニアへの架け橋的能力などを磨かないと、今後はエンジニアやソフトウェアに仕事をくわれてしまうと思います。
学生の方やエンジニア未経験の方にアドバイスはありますか?
僕自身、大学時代からデータサイエンスについて勉強していたので、そういう道筋からでないケースについてはあまり詳しくはないです。僕と似たバックグラウンドであれば、自分の数学偏差値などは把握しているでしょうから、世間の流行にあまり流されず、自分のやりたいことを大切にすれば、時間はかかってもそれが良いのだと思います。
逆に情報技術や統計から遠いところからスタートされる方が、データサイエンスや機械学習を勉強してエンジニア領域にいきたいなら、かなりのジャンプが必要だとは思います。数学にあまり固執せず、プログラミングで人生を変えようとせず、地味に地道に現場で成果を積み重ねる。ビジネスクエスチョンを起点に、その解決のために自分が採用した技術を振り返る。あせらず年単位の成果を得ていくことを心がける。そうすれば結果、一番高くジャンプできると思います。
就職は、できるだけ責任をまかされるような会社がよいでしょう。自分で手を動かして分析しながら、クライアント対応もさせてくれる、仕事に裁量を持たせてくれるという組織や部署がいいですね。
転職などでいざ動こうとなった場合に、自分が躊躇しそうなことは事前につぶしておくとよいでしょう。本格的でなくても「プログラミングを一回は勉強してみる」「データサイエンスを仕事にしている人たちに現場の仕事を聞いてみて期待したイメージと違いがないか確かめる」くらいでよいと思います。
山田さんのなかでのデータサイエンティスト像をお聞かせください
データサイエンティスト協会が定義した「ビジネス」「データサイエンス」「データエンジニアリング」の3つの円がかかれた図は有名ですが、あの世界観を描いた当初と現在では、少し趣が変化してきているように感じます。
当初は、技術サイドが技術に縛られないように「ビジネス」の円が強調されていたと思いますが、現在は技術解像度の低いビジネスサイドの限界が露わになりつつあるように感じています。
なので、3つのうちの1つに「ビジネス」を入れてしまったのはちょっと失敗というか、ビジネスサイドを安心?させちゃったかなという気持ちがあります。ビジネスが大事、自分たちが上流みたいな。
データサイエンティストも実務者でありビジネスマンですから、あれは円ではなく四角形として、他の要素を囲むくらいがちょうど良かったかなと。3つ目の円がないとカッコがつかないので代案になってはいませんが。
もちろん、バランスは大事でビジネスを強みとしたデータサイエンティストが存在することも理解しているので、究極は自分の持って生まれた才能のなかで最適解をつくるというような感じでいいのではないかなと思います。
どのような能力バランスだったとしても、データサイエンティストを名乗ることは自由です。やろうと思えば誰でもやれる道筋があるという点がデータサイエンティストのいいところでもあり、よくわからないところでもあるという理解ですが、世間や他人の正解に流されず、自分が在りたい姿のデータサイエンスティストになれば良いのだと思います。
データサイエンティストになった後に仕事で心がけることはありますか?
僕はこの職種しか知らないので一概にはいえないですが、営業であれ、エンジニアであれ、結局は人と人とで仕事をしていると思っています。なので、仕事をすすめていくうえで大切なことに職種による違いはそこまでないのではないかという考えです。そのことを踏まえたうえで、どんな仕事でもそれを届けるべき人の意図や思いをしっかり汲んだうえで仕事を進めていくことが重要だと思います。
データサイエンティストが一緒に仕事をするのは、何かしらの意思決定者が多いですが、その人のペインや悩みを解決するために仕事をしているわけです。なんらかの目的に対して、あくまで手段として技術とか統計的なバックグラウンドをつかっているにすぎないわけですね。
そのため、データサイエンティストとして働くからといって特別意識することなく、仕事をするうえでの手段と目的を取り違えなければ、エンジニアのときに気をつけていたポイントとなにか特別にかわるということはないかと思います。