データエンジニアに必要なスキルセット
社会に欠かせないデータ活用を裏側から支える技術職が「データエンジニア」です。AI技術の普及により、今後も需要の拡大が予想される職業ですが、実務ではどのような能力や専門知識が必要になるのでしょうか。
この記事では、データエンジニアとして働くために必要なスキルセットについてわかりやすく解説します。おすすめの認定試験や資格についても見ていきましょう。
目次
データエンジニアとは
企業がビジネスを行う上でデータの収集・分析は欠かせません。マーケティングや営業・販売などの意思決定に役立てることができますし、コスト削減や自動化など企業が抱える課題を解決する手段としてもデータの活用は有効です。しかし、データをただたくさん集めるだけでは役に立たず、目的に合わせて整理・加工することで、初めて活用できるものとなります。
また、さまざまなデータを収集し、統合して管理するためにはその基盤となるインフラが必要ですが、アーキテクチャを設計し、データベースやシステムを構築するのもデータエンジニアの仕事です。各職場の求めに応じ、必要に応じてデータを取り出し格納するアプリを開発することもあります。
さらにデータパイプラインの整備、パフォーマンスチューニング、エラーの監視やバグ修正といった運用開始後の保守管理も行うなど、業務内容はデータ管理全般にわたる幅広いものです。そのようにデータの抽出から整形・加工、システム開発そして管理・運用までを行う技術者がデータエンジニアです。
データベースエンジニアとの違い
データエンジニアと類似した職種にデータベースエンジニアというものがあります。名称も似通っており、どちらもデータベースの構築や管理に関わる点が共通しています。
一方で、データベースエンジニアはデータベースを軸とした業務を担当するのに対し、データエンジニアはデータを分析しやすい形に整えること全般が業務の対象となる点が違いといえます。クラウド上に機械学習をおこなうための環境を構築するなど、データサイエンスの業務とも関連した仕事です。
また、データベースエンジニアが扱うのは必ずしも分析用のデータだけではなく、業務システムやWebサービスまで幅広く対象となること、オンプレミス環境で稼働中のRDBMSにおいて「Oracle」や「Microsoft SQL Server」といったDB製品を扱うことが多い点なども相違点といえるでしょう。
簡単に区別するなら、あらゆる種類のデータベース構築を行うのがデータベースエンジニア、分析を目的とした様々なデータ処理を扱うのがデータエンジニアと考えるとよいでしょう。
データエンジニアに必要なハードスキルとソフトスキル
データエンジニアに必要なスキルを「ハードスキル」と「ソフトスキル」に分けてご紹介します。
ハードスキル
データエンジニアに求められるハードスキルは5つあります。
- 開発スキル
- データベースの管理や操作
- 分散処理のスキル
- クラウドサービスの知識
- 2.5 データ分析や機械学習の経験
開発スキル
データベースエンジニアがデータベースを作り、データエンジニアは分析しやすいようにデータを整理・加工すると説明しましたが、データエンジニア自身がシステム開発を行うことも少なくありません。従って、プログラミング言語を用いた開発スキルは必須といえます。
プログラミング言語には様々なものがありますが、データエンジニアにまず必要なのは「Python」や「SQL」といったデータ分析で用いられる言語です。
特にPythonは統計や科学計算のほかディープラーニングにもよく使われるので、ライブラリの扱い方はもちろん環境構築まで身につけておくのがおすすめです。データ処理基盤の構築や分散処理のフレームワークに用いられる「Java」や「Scala」も学んでおくとよいでしょう。
データベースの管理や操作
多種多様な種類のデータをサーバーに格納し、目的に応じて抽出・分析するというのは、データエンジニアの仕事のまさに根幹をなすものといえます。従って、データベースを扱うための知識も必要不可欠となります。
最も大切なのは「RDB(リレーショナルデータベース)」に関する知識で、基礎知識だけでなく自身で設計できるスキルが必要です。また、そこからデータの取り出しや格納を行うためには「SQL」の知識も必要となります。
データの取り出し・格納を行う方法としては「NoSQL」も身につけておきたいところです。RDBがExcelの表のように構造化されたデータを扱うのに対し、NoSQLは非構造化データを扱うのが特徴となっています。幅広いデータを扱えるデータエンジニアとなるためには両方に精通していることが望ましいです。
分散処理のスキル
データエンジニアが扱うデータは膨大な量に及ぶことが多く、コンピュータに大きな負荷がかかるため処理速度が低下してしまいます。1台では捌ききれない大量のデータを扱うためには、複数台のコンピュータに処理を分散することで負荷を軽減し、処理速度を上げる分散処理が欠かせません。従って、この分散処理のスキルもデータエンジニアには必要です。
分散処理のフレームワークとして代表的なものにオープンソースソフトウェア(OSS)の「Hadoop」や「Spark」といったものがあります。ぜひ習得しておきましょう。なお、分散処理の技術は進歩が速く、常に最新のスキルを身につけておくことが求められるため、こまめに新しい情報をチェックすることが大切です。
クラウドサービスの知識
データ分析基盤を社内で一から構築するとなると高いコストがかかるため、なかなか踏み切れないという企業も少なくありません。そこで注目を集めているのが、比較的安価で素早く導入可能なクラウドサービスです。データウェアハウス(DWH)やデータレイクといった基盤環境を新規に構築する際にクラウドを利用すると、迅速にシステムを立ち上げることができます。また、データマートを利用して分析ツールやデータの加工・抽出ツールを社内に導入することで、事業部門でも簡単にデータを利用できるようになります。
こうしたクラウドの利用が増加していることから、データエンジニアにとってもクラウドに関するスキルは必須となっています。AWS(Amazon Web Services)やMicrosoft Azure、GCP(Google Cloud Platform)といった代表的なクラウドサービスを利用した基盤構築がすぐにできるよう、経験を積んでおきましょう。また、分散処理やセキュリティに対応したシステム構成の組み方についても知っておきたいところです。
データ分析や機械学習の経験
データエンジニアの仕事はデータ分析を行うための基盤作りであって、データ分析そのものではありません。実際にデータ分析を行うのはデータサイエンティストやデータアナリストといった職種の人々です。ただ、データエンジニアはこうした職種の人たちとチームを組んで仕事をすることも多いものです。従って、データサイエンスの仕組みや手法を知っていれば意思疎通がしやすく、仕事がスムーズに運びます。
機械学習に関しても同様で、モデル作成やチューニングを直接担当するわけではないにしても、そのアルゴリズムや用途を知っているデータエンジニアは重宝されるでしょう。従って、データ分析や数学、統計といった学問に関しても知識と経験を積んでおくのがおすすめです。
ソフトスキル
データエンジニアに求められるソフトスキルは4つあります。
- コミュニケーションスキル
- 問題解決能力
- 協調性
- 柔軟性や適応力
コミュニケーションスキル
データエンジニアはデータ活用できるように、データ処理基盤を構築することが主な仕事です。 つまり、データ活用の目的をヒアリングした上で要件定義を行い、データ処理基盤を構築しなければなりません。相手の要望を的確に捉える際には傾聴力が求められ、相手に最適な基盤を提案する際はわかりやすく伝える力が求められます。つまり、コミュニケーションスキルが必要です
。また基盤開発チームで、データパイプラインの整備やパフォーマンスチューニング、バグ修正などを行う際にも、メンバー同士のコミュニケーションが欠かせません。メンバー同士で「報告」「連絡」「相談」などを適切に行って、プロジェクトを円滑に進めていく必要があります。そのため、普段から相手の気持ちを考慮して話すなどしてコミュニケーションスキルを磨きましょう。
問題解決能力
データエンジニアは、データ活用の目的に合わせてデータ処理基盤を構築します。お客様の要望を聞いた上で、どのようなデータ処理基盤が最適であるか判断する力が求められます。 また、データ処理する上で「データの品質」「データの統合性」「データ処理時間」など問題が発生するケースも多いです。このような問題が発生した際に、原因を特定して解決しなければなりません。そのため、問題の本質を捉えて、解決までの道筋の計画を立て実行する問題解決能力が求められます。
協調性
ータエンジニアは基本的にチームで仕事を進めていきます。フロントエンドエンジニア、バックエンドエンジニア、インフラエンジニア、データベースエンジニアなど、それぞれが得意とする分野を持ち、役割を分担しながら開発を進めていくことが大切です。
また開発プロセスにおいては「設計」「実装」「テスト」「デバッグ」などさまざまなフェーズが存在します。チームメンバー間で密なコミュニケーションを取り、進捗状況を共有し、問題が発生した場合には、お互いに協力し合い解決する必要があります。そのため、普段からチームメンバーと密なコミュニケーションを取り、協調性を大事にするようにしましょう。
柔軟性や適応力
データエンジニアには柔軟性と適応力が求められます。なぜなら、IT技術の進化のスピードが速いためです。新しいプログラミング言語やワークフレーム、ITツールが続々と登場しています。データエンジニアは、これらを上手く活用することが求められます。
つまり、一つの技術に固執するのではなく、新しい技術を積極的に学び、柔軟に適応できる能力が不可欠です。 また、アジャイル開発やDevOpsなど開発プロセス自体が変化することもあります。顧客によりニーズも多様化しているため、データエンジニアには柔軟に適応できる力が求められます。
データエンジニアの業務に必要なスキルセット
データエンジニアに求められる「ハードスキル」と「ソフトスキル」をご紹介しましたが、業務を円滑に進めるためのスキルセットも3つあります。
データの整理や管理スキル
データエンジニアは、企業が保有データを活用できるようにデータ処理基盤を構築する役割を担います。 求めるデータに素早くアクセスできるように、データを種類別や属性別に分類し、SQLなどのクエリ言語を用いて効率的に検索・抽出できるようにデータベースを設計しなければなりません。
また、正確にデータ分析を行えるように、データクレンジングやデータ変換を行わなければなりません。 つまり、データエンジニアは、データがどのように活用されるかを意識しながら、データを整理したり管理したりする力が必要となります。
システム運用のスキル
データエンジニアはデータ処理基盤が安定稼働するように監視していく必要があります。データ処理基盤に異常が発生した場合は、原因を特定して迅速に復旧しなければなりません。 また、異常が発生してデータ損失するなどのトラブルを防ぐために、定期的にデータのバックアップを取得して、別の場所に保管するなど工夫をしながら運用しなければなりません。つまり、データエンジニアはシステム運用・保守の知識も求められます。
インフラ周りのスキル
データ処理基盤では、大量のデータを処理するために適切なリソース(サーバーやネットワーク、ストレージなど)を確保しなければなりません。リソース配分を間違えてしまうと、データ処理基盤の性能が低下してデータ処理時間が遅延したり、エラーが発生したりします。そのため、データ処理能力に見合ったインフラのスケールアップ・スケールアウトが欠かせません。つまり、データエンジニアはサーバーやネットワーク、ストレージなどインフラ周りのスキルも求められます。
データエンジニアにおすすめの資格
データエンジニアは、ある特定の資格を持っていないとなれない職業ではありません。ですが、取得することで専門知識を持っていることを公的に証明できる資格はいくつかあります。ここではデータエンジニアを目指すなら取っておきたいおすすめの資格を紹介します。持っていると就職や転職で有利になることもあるのでぜひ参考にしてください。
情報処理技術者試験
情報処理推進機構(IPA)が行う国家試験で、「基本情報処理技術者試験」と「応用情報処理技術者試験」の2つがあります。基本情報処理技術者試験はITエンジニアの登竜門ともいえる試験で、ソフトウェアやハードウェアに関するものから情報セキュリティやデータベース、システム開発に至るまで幅広い範囲から出題されます。
応用情報処理技術者試験は基本情報処理技術者試験の上位資格で、基本情報処理技術者試験と出題範囲は同じですが、いずれの分野でもワンランク上の内容となっており、難易度は高めです。試験は毎年春・秋の2回で、合格率はどちらも20%程度となっており、しっかりとした準備が必要です。
データベーススペシャリスト試験
こちらも情報処理技術者試験と同じく情報処理推進機構(IPA)が行う国家試験です。スキルレベル4の最高難度で、スキルレベル2の基本情報処理技術者試験、スキルレベル3の応用情報処理技術者試験に比べて難易度が高く、合格率は10%程度の狭き門となっています。
データベースの企画・要件定義から開発・保守運用、さらにはマネジメントや経営戦略に至るまで、合格には広く深い知識と実践的なスキルを持っていることが必要です。試験は年1回、秋に行われ、選択式・記述式の試験が2つずつありほぼ丸一日かかります。
難関の試験ではありますが、それだけにデータベースのスペシャリストであることを証明できる価値の高い資格といえるでしょう。
CCP データエンジニア認定試験
企業向けのデータクラウドプラットフォーム「Apache Hadoop」を手掛けるアメリカのソフトウェア企業「Cloudera」が主催する資格試験です。データの変換や格納、アプリケーションでの利用などデータエンジニアに必須の知識を問うものですが難易度は高く、そのうえすべて英語で出題されるため英語力も必要となります。
ただし国際的に通用する資格なので、外資系企業や海外での活躍も視野に入れている人ならぜひ取っておきたい資格といえるでしょう。オンラインでの受験も可能です。
Professional Date Engineer
「Google Cloud」を提供するGoogleが行う認定試験です。データの収集・変換・公開により意思決定の支援をするというデータエンジニアとしての能力を持つことを認定するもので、データ処理システムの設計や構築・運用、機械学習モデルの運用など幅広い分野から出題されます。難易度は高めですが、Google Cloudを導入する企業は増えているので取っておく価値はあるでしょう。
試験は英語と日本語の両方に対応しており、リモートでの受験が可能です。受験資格は特にありませんが、業界での実務経験が3年以上、特にGoogle Cloudの設計・管理経験が1年以上あることが推奨されています。認定資格の有効期限は2年となっており、再認定には再度受験して合格する必要があります。
統計検定
日本統計学会が国の後援を得て行っている全国統一の資格試験です。統計に関する知識や活用法を学ぶことを通し、データに基づく客観的な判断力や科学的な問題解決能力を育み、広く国際社会で通用するスキルをビジネスパーソンに身につけてもらうことを目的としています。統計的な推論から事業戦略を立てる力はデータエンジニアの仕事にも役立つので、おすすめの資格です。
4級から1級までの5段階(準1級を含む)に分かれており、データエンジニアであれば大学基礎統計学の知識と実践力を問う2級を目指すのが良いでしょう。試験はCBT方式で行われ、好きな日を選んで受けることができます。
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