機械学習エンジニアに必要なスキルセット
人工知能(AI)分野の技術職として注目を集める「機械学習エンジニア」ですが、現場で活躍するプロフェッショナルにはどのようなスキルが求められるのでしょうか。採用においては、企画・開発・運用といったフェーズ毎に求人の要件も異なるのでしょうか。
これからAI業界に就職や転職を考えているけれど「そもそもどんな職業なの?」「目指す前に何を勉強して、何を身につければよいかわからない」と思う方も多いかもしれません。
そこでこの記事では、プロジェクトの実務で求められる機械学習エンジニアのスキルセットを解説します。業務内容や代表的なライブラリについてもみてきましょう。
目次
機械学習エンジニアのスキルセット
AIやビッグデータを担当する機械学習エンジニアではどのような知識や経験が必要なのでしょうか。ここでは、機械学習プロジェクトに関わるために必要なスキルセットを紹介します。
ITスキル
機械学習(マシンラーニング)を専門にするといっても、IT技術者として働く以上は、コンピュータや情報処理に関する知識が欠かせません。そして、機械学習エンジニアの場合は、一般的なエンジニアに必要なアプリケーションやソフトウェアを開発する能力に加え、データを解析・処理、可視化するためのスキルも必要になります。
プログラミング
業務で機械学習モデルの開発やAIシステムの実装をおこなうため、コードを書きプログラムを組むスキルは必須です。プログラミング言語には様々なものがありますが、機械学習エンジニアの場合は、データサイエンスや統計のライブラリが豊富なPythonやR言語を使うケースが多いです。そして、SQLを習得して大量のデータを抽出・操作する方法を身につけると良いでしょう。
ただ、それ以外にも組み込み系だとC言語やC++、アプリケーション開発だとJavaなど、プロジェクトによってはPython以外の言語を使用して開発をおこなう場面もあります。そのため、機械学習エンジニアでもどの分野に進みたいのかをはっきりさせ、それに合った言語を選択しましょう。
データベース・クラウド
機械学習では、データの解析とチューニングを繰り返して分類や予測などをおこないます。使用するデータを収集したり蓄積したりするうえで、データベースやクラウドの知識も必須です。データベースの接続やデータの操作はもちろん、データクレンジングなどの知識もあると良いでしょう。
大量のデータを扱うAIシステムの開発では、AWSやGCP、Azureなどのクラウド環境にデータベースを構築する機会も多いです。
また、一般的なソフトウェア開発と機械学習に用いられるデータベースは違います。RedshiftやBigQuery 、MongoDBなど機械学習をはじめとする大量のデータの取り扱いに長けているデータベースの知識を身に着けましょう。
環境構築・運用
機械学習やデータ分析の基盤環境を整えたり、インフラの構築などもスキルセットとして必要です。環境構築ではチームで開発を進めることを前提に、OSや言語のバージョンを揃え、開発に必要なソフトウェアのインストールや設定作業をおこないます。
本番環境にデプロイする前に、テスト環境で開発をおこなえるよう準備します。ログ監視やパフォーマンスチューニング、障害対応などの運用にも慣れておきましょう。手順書やマニュアルなどのドキュメント作成を頼まれる場合もあります。
機械学習に関するスキル
機械学習エンジニアとして働く以上、数学や統計など学問的な知識とAIに関する専門性が必要です。詳細な基準は職場やポジションによって異なりますが、求められるスキルの傾向を以下で解説します。
データの整理・前処理
データサイエンスに関するプロジェクトの業務のうち、工数の大半を占めるとも言われているのがデータの整理や前処理と呼ばれる仕事です。機械学習で精度を向上するには、良質なデータが必要となります。クレンジングをおこなわずに、精度を出せるデータがあれば何よりですが、実際には、ところどころ歯抜けになっているデータや入力ミス、外れ値などAIで処理すべきでないデータも存在するものです。
それらを何も処理せず解析に使用してしまうと、よりよい結果を導き出せなくなってしまいます。例えば、データのなかに表記ゆれが生じていたり、単位や粒度が誤っていたりすると、データを集計した際に、正確な数値とならないでしょう。そこで機械学習エンジニアは分析を行う前に間違っていたり、故意に異常な数値を入力したりされているデータを省き、よりデータの精度を高めます。
データの可視化・分析
データから意味のある情報を得るうえで、可視化や分析は欠かせません。機械学習プロジェクトでも、AIで解決する課題へのアプローチを考案し、使用するアルゴリズムや技術要素などの方向性を決めていくうえで、探索的なデータ分析をおこないます。実際のデータに目をとおしたうえで、Pythonのライブラリなどを活用してグラフや図を作成することで関連性やパターンを見出します。
レコメンドなど解析後の出力結果を表示することも可視化の一部といえ、データの傾向を表示するUIや管理画面を開発することもあります。可視化では分析後に自分でプログラムを書いて線画することも多いですが、統計ソフトやツールを利用することもあります。
ライブラリやフレームワーク
機械学習システムの開発においても、ライブラリやフレームワークといったオープンソースソフトウェア(OSS)の利用は一般的です。一からコードを書いていると、作業時間が長くかかり開発コストが増加しますが、用途に応じてすでにあるライブラリやフレームワークを用いることで、効率化を図ることが可能です。
そのため、実務で活用できる程度のスキルがあるとよいでしょう。ちなみに機械学習でよく使われるフレームワークには、PyTorchやKerasなどが挙げられます。また、ライブラリに関しては後ほど詳しく解説します。
機械学習・深層学習の知識
機械学習・深層学習そのものの理論を理解していないと機械学習エンジニアとしての仕事ができません。教師あり学習、教師なし学習、強化学習などのアルゴリズム、深層学習(ディープラーニング)で用いられるニューラルネットワークなどは最低限おさえておく必要があるでしょう。画像処理・物体認識、自然言語処理、音声認識など専門分野に関する知見が必要とされる職場もあります。
統計・数学の知識
大量のデータを分析するにおいて欠かせないのが統計学や数学の知識です。統計学に関しては、最低限でも大学レベル、統計検定2級合格レベル程度の実力が必要でしょう。また、数学に関しては、高校の数学3C〜大学数学レベル、特に微分積分、確率、数列、行列、ベクトルの知識を重点的に深めましょう。
英語力
AIに関するドキュメントは日本語訳されていないものも多いです。そのため、機械学習エンジニアには英語力も欠かせません。目安としてはTOEIC700以上、技術英検3級以上を目指したいところでしょう。英語力を高めていけば外資企業で働いてより高い給料を得るなどの道をめざせ、転職やキャリアアップを考える際にも有利です。
機械学習モデル構築の流れ
それでは、機械学習エンジニアはどのように業務を進めていくのでしょうか。ここでは、機械学習モデルを作成する流れについて解説します。
企画・要件定義
企画段階では、モデル構築にあたって必要な条件を整理し、実現したい内容や効果、使用するデータ、技術要素、チーム体制、予算、スケジュールなどを検討します。データはどこから集めるのか、どの程度の精度を目指すのかなど大枠の方向性のみを決めておき、スモールスタートで始める場合もあります。
データの準備
モデルを開発するのに必要なデータの収集を行います。自社が保有するデータを利用することが多いですが、社内のデータが一元管理されていることは稀なため、データソースや保管場所を確認しながら、統合・整理をすすめていくところから開始するケースが多いです。PoCに必要な分だけ、限定的にデータを収集することもあります。
データの前処理
収集・準備をして得たデータについて、データクレンジング(データ前処理)を行います。この段階では先ほど解説したように、明らかに異常なデータを省いたり、より正確なデータを求められるようにデータを加工したりします。
モデルの開発・学習
課題や用途にあわせた機械学習モデルを開発し、実際のデータをモデルに学習させます。出力された結果にもとづいて性能の検証をおこないながら、アルゴリズムやデータのチューニングを実施します。データを処理する仕組みを作り、様々なパターンを覚えさせることで、開発時に入力したデータ以外を入力したとしても自動的に判断ができるようになります。
モデルの評価
モデルの評価では最終的な検証をおこないます。事前に設定した評価指標を用いて開発したモデルがどの程度の結果を出すことができるのか、精度の評価を行います。モデルの精度が基準を下回って低い場合には、本番環境に適用することはできないでしょう。その場合は前のフェーズに戻り、開発のサイクルを繰り返します。
機械学習のライブラリ
機械学習においては複雑な計算が必要となり、分類や回帰などのアルゴリズムをよく使用します。また、AIシステムの開発でも効率化のためにPythonのライブラリを用いるのが一般的です。ここからは、機械学習でよく使われる代表的なライブラリを紹介します。
NumPy
NumPyはPythonで数的処理を行う際に用いるライブラリです。統計に関する拡張モジュールの中でも基本中の基本となるライブラリでしょう。多次元配列に対応しており、足し算引き算をはじめとする簡単な計算から、行列、ベクトルのような複雑な計算まで処理することができます。モデルを学習しながら演算をおこなうなど高速な数値計算が必要となる機械学習分野においてNumPyの知識は欠かせません。そのため、Pythonのライブラリについて学ぶのであれば、NumPyの知識を広げるのを優先することをおすすめします。
Pandas
Pandasはデータの処理や解析に用いるライブラリです。表形式や時系列のデータをSQLに似た操作で高速に処理できます。CSVやExcel、RDBなどから読み取り・書き込みできる、異なる型のデータをひとつのデータフレームで扱える、欠損値の削除や補完などデータの前処理も容易におこなえる、といった特徴があります。そのようにPandasはデータ加工や行列の処理に優れており、NumPyと並び機械学習に欠かせないライブラリといえます。より少ない手間と時間でデータの精度を向上させるためにも、Pandasの習得は必須です。
Matplotlib
Matplotlibはデータを可視化する際に用いるライブラリです。Pythonでグラフを描画し、出力した結果を画像で保存したり、GUIに組み込んだりすることができます。描画するグラフは、折れ線グラフや散布図、ヒストグラムなど主に2次元ですが、3次元にも対応しています。データ同士の関係性を把握する用途のほか、分析結果のレポートなどでNumPyと組み合わせて活用でき、Jupyter Notebookでソースコードと一緒に管理することも多いでしょう。
SciPy
SciPyは数的処理に用いられるライブラリです。NumPyを基礎としているため配列や行列を演算でき、線形代数や微分積分などの計算が必要な場面で用いられます。SciPy では、それに加え信号処理や遺伝的アルゴリズムなどのモジュールを提供しています。NumPyと比較される事が多いですが、対象となる領域や用途によってはSciPyの方が機能が多く、処理も優れています。取り扱うデータに応じてライブラリを使い分けましょう。
scikit-learn
scikit-learnは機械学習のアルゴリズムが豊富に用意されたオープンソースのライブラリです。現在でも活発に開発が続けられており、データ解析の技法が一通り揃っていることから、初心者から上級者まで幅広い層の支持を獲得しています。分類・回帰・クラスタリングなどの目的に応じて、サポートベクターマシン、ランダムフォレスト、勾配ブースティング、k近傍法などのアルゴリズムを選択し実装までをおこなうことができます。
TensorFlow
ディープラーニング分野で高い支持を獲得しているのがTensorFlowです。画像認識や音声認識にも活用されており、2015年にGoogleが開発したという背景もあり、注目度の高いライブラリと言えるでしょう。ニューラルネットワークに対応しており分散学習できるのがTensorFlowの特徴で、大量のデータを扱う場面に向いています。JavaやC言語、GoなどPython以外の言語にも対応していて柔軟性の面でも優れているライブラリです。
Keras
ニューラルネットワークのライブラリとしてKerasも挙げられます。迅速な実験をおこなうことを重視して開発されたため軽量で拡張性の高い構成となっています。TensorFlow、Theanoなどのフレームワーク上で動作するライブラリで、簡単に機械学習モデルの実装ができるのが特徴です。よくTensorFlowと比較されますが、Kerasはコードの記述量が少なく、デバックもしやすいので、初めて機械学習・ディープラーニングを学ぶ際にもおすすめです。
機械学習のスキルを身に着けるには
機械学習エンジニアに必要なスキルセットやライブラリについては、これまでのご説明でご理解いただけたのではないでしょうか。ここからは、実際に機械学習のスキルを身に着けるための方法について紹介したいと思います。
機械学習を独学で学ぶことは不可能ではありませんが、効率的な学習を進めるのではオンライン講座やスクールなどの受講をおすすめします。弊社が展開している「AIジョブキャンプ」では、動画を使用したオンラインレッスンで、現役のデータサイエンティストから機械学習のアルゴリズム(教師あり・なし学習)を体系的に学ぶことが可能です。なお、こちらの講座は無料となっています。
AIジョブキャンプは社会人向けの「AI教育講座」と業務委託の案件紹介をする「エージェント」サービスがセットになった無料の研修プログラムです。登録や利用は完全無料ですので、気になる方はぜひご利用ください。
AIを仕事にするためのキャリアノウハウ、機械学習・AIに関するTopics、フリーランス向けお役立ち情報を投稿します。