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アクチュアリーとは?仕事内容や年収事情、資格対策や就活・転職対策までわかりやすく解説

保険会社や年金などで活躍する数理業務の専門職が「アクチュアリー (actuary) 」です。確率論や統計学などを専攻した後の進路として、研究者や教育者と並び人気があります。

この記事では、アクチュアリーの仕事内容や給料、素養と能力、クオンツとの違いなどを紹介します。就職先や試験対策、転職などのキャリアパスも解説します。

アクチュアリーとは

アクチュアリーとは、確率論や統計学など数学的な手法を駆使して、保険や年金、企業のリスクマネジメントといった領域において数理的な業務を行う専門家のことを言います。日本語では「保険数理士」「保険数理人」と訳されます。具体的には保険料率・支払保険金額の算定や、将来の不確実な事象についての評価といった業務に従事します。例えば保険分野では、人口調査、事故率、気象情報、政治、経済動向などの統計データを収集して「保険料の算出」「保険商品の作成」「資産運用」といった業務にあたります。

国内では、「日本アクチュアリー会」の正会員がアクチュアリーとされます。正会員の資格を取得するためには、資格試験の全科目合格と、プロフェッショナル研修の受講が必要です。

アクチュアリーの仕事内容

アクチュアリーが関わる仕事は大きく分けて「生命保険」「損害保険」「年金」「リスクマネジメント」です。ここでは、アクチュアリーの仕事内容についてご説明します。

生命保険

生命保険は基本的に長期契約になっているため、死亡率や金利などを計算する必要があります。計算をする場合、多くのデータを解析して、統計学などを使っていることが特徴です。生命保険の契約では、「生命保険数理」と呼ばれるものがあります。アクチュアリーは生命保険数理を用いて、さまざまな計算をしているのです。

例えば、保険の新商品を出す時の価格評価、支払う保険金の積立評価などをしていて、会社の収支分析や健全性の確認もしています。

損害保険

損害保険とは事故や災害による損失の補填制度であり、代表的なものとして「自動車保険」「火災保険」「傷害保険」などが挙げられます。契約者ごとにそのリスク条件も異なりますが、確率のモデルは組み立てなければなりません。アクチュアリーが多種多様なリスクを考え、モデルの組み立てや商品開発のサポートなどをしています。

年金

年金には公的年金と私的年金があり、アクチュアリーが関わるのは主に私的年金に分類される「企業年金」になります。アクチュアリーは企業年金制度の設計や掛金率の計算、企業年金制度を健全に運用するための財政検証など、企業年金制度に関わる部分に関与していきます。

例えば、従業員へ退職金を支払う場合、勤務年数や退職時期によって、支払う金額は異なります。従業員の将来的な昇給や離脱も考えながら、退職金を支払うための掛金などを計算しているのです。

リスクマネジメント

企業を取り巻くリスクの増加や多様化から、リスクマネジメントを重要視する企業も増えてきました。アクチュアリーが企業のリスクマネジメントに関わる場合、数理的な知見を活用した定量的な分析や経営企画といった領域にも携わるケースが多くなっています。リスクマネジメントに備えた提案やアドバイスをするのも、アクチュアリーの仕事です。近年ではERM(統合型リスク管理)と呼ばれる、組織に発生するリスクを包括的、戦略的に把握、評価した上で最適化を進め、企業の価値の最大化を図るリスクマネジメント手法が注目されています。ERMにおいてもアクチュアリーの活躍は期待されているのです。

アクチュアリーの年収事情

アクチュアリーの年収は、就職している会社や会員の種類・年齢によって異なります。一般的には、900万円~1,200万円が年収の相場です。第1次試験に1科目合格したレベルの人は、約500万円~600万円のスタートになります。

アクチュアリーとして経験を積むと徐々に年収は上がっていき、実際には1,500万円以上の年収になっている人も多いです。

アクチュアリーになるには

アクチュアリーになるためには、どのような手順を踏めばいいのでしょうか。これから、アクチュアリーになる方法として、2つのパターンをご紹介します。

日本アクチュアリー会の「正会員」になる

アクチュアリーになるためには、「日本アクチュアリー会」の資格試験に合格するだけでなく、「正会員」になることが必要です。ただし、試験合格に3~5年かかるともいわれており、多くの人は保険会社などへ入社後に正会員となります。

アクチュアリーの資格試験では取得した科目を保持しておくことができるため、学部3年生から内定前に就活対策として受験することも可能です。試験合格はスキルの証明にもなるため、採用に役立ちます。資格試験は年に1回のため、ホームページなどで事前に調べておきましょう。

保険会社や信託銀行などに候補生として採用される

アクチュアリーを採用している生命保険会社や損害保険会社・信託銀行では、「アクチュアリー候補生」の枠を用意しているところがあります。総合職とは別に募集されていて、アクチュアリー候補生枠で採用されると、アクチュアリーの業務をする部署へ配属されるでしょう。

基本的な知識が身につき、資格試験にも合格しやすくなります。会社によっては、資格試験の対策講座や受講費の援助をしているところもあるのです。

アクチュアリーに向いている人

アクチュアリーに向いている人とは一体どういう人なのでしょうか。3つのポイントについて見ていきましょう。

数学や統計学などが得意、好き

アクチュアリーは数理的な知見が求められる職種です。そのため、数学や統計学が得意、好きという人であれば向いていると言えるでしょう。自分の好きな分野を活かした仕事になるため、やりがいを感じやすく、そうした点も魅力となります。

目標のために継続して努力し続けられる人

「日本アクチュアリー会」の試験合格には3~5年かかると言われています。短期間で目指せる職種ではないため、数学が好き、得意というだけでなく、目標のために継続して努力し続けられる人がアクチュアリーには向いています。

幅広い分野にアンテナを張れる人

アクチュアリーの実務では数理的な知見だけでなく、社会動向や景気変動の要素を考慮していく必要があります。そのため、社会の動きを敏感に察知することや、会計や法律などへの理解や情報のキャッチアップも求められてきます。こうしたことから、幅広い分野に対してアンテナを張れる人もアクチュアリーに向いています。

アクチュアリーに求められる資質・スキル

アクチュアリーには、求められる資質や能力があります。例えば、「数学的要素」「論理的思考力」「コミュニケーション能力」「柔軟性」「継続学習能力」です。これから、アクチュアリーに求められる資質や能力を具体的にご説明します。

数学的素養

資格試験に合格するためには、数学的素養がないといけません。試験には数学の問題が多いため、数学の基本知識だけでなく応用問題も解けるといいでしょう。

論理的思考力

統計学などを使って、データの分析から最適な方法を導き出すのがアクチュアリーの仕事です。よって、論理的思考力を用いて、物事をしっかりとした道筋に沿って考える能力が求められています。

コミュニケーション能力

アクチュアリーは分析をするだけでなく、提案や助言もしています。他の従業員と話す機会も多いため、コミュニケーション能力が必要でしょう。会社の上層部にリスクマネジメントなどの提案をする場合もあります。

柔軟性

アクチュアリーが取り扱う仕事は、重要視する項目によって、正解が異なる場合があります。例えば、「会社の利益を優先する」「社会の動向に合わせる」「一般消費者目線になる」など、さまざまです。分析した結果だけで動くのではなく、柔軟性を持って結果を出せるといいでしょう。自分の考えだけに固執せず、さまざまな意見も聞ける能力が大切です。

継続学習能力

社会情勢や動向・消費者の価値観など、さまざまなことが変化していきます。過去のデータだけで分析をするのではなく、継続的に新しいことも学習できる能力が必要です。新しい情報収集は、アクチュアリーにとって大切とされています。

アクチュアリーのキャリパス


アクチュアリーは専門性の高い職種であり、男女関係なく主体的にキャリアを形成しやすいという点が大きな特徴です。資格取得までに時間を要する職種ですので、無事に取得したのちは身に着けてきた知識を活かして、ステップアップを目指していくことになります。

保険業界で活躍する人が多いイメージがありますが、コンサルタントして経営企画に関わる人もいれば、監査法人に勤めて保険会社の外部監査を担当するという人もいます。また、英語力を身に着けて外資系企業で活躍するという選択肢もあります。

アクチュアリー資格試験と対策

アクチュアリー資格試験とは、公益社団法人「日本アクチュアリー会」が実施している資格試験です。第1次試験と第2次試験があります。合格した人は、数理業務の専門家として認定されるのです。ここでは、アクチュアリー資格試験の概要や合格率・難易度をご紹介します。

第1次試験・第2次試験

第1次試験は基礎科目について問われます。試験科目は「数学」「会計・経済・投資理論」「年金数理」「損保数理」「生保数理」の5つです。受験者が受験項目を選択できます。受験資格は大学や短期大学を卒業した人です。

また、要件を満たせば、大学3年生以上の人や高等専門学校卒業者・受験科目に関連する知識を持っていて、保険や年金業務を3年以上経験している人も対象になります。

第2次試験は実務における専門的知識や問題解決能力が問われます。「年金コース」「損保コース」「生保コース」の中から1つ選択する仕組みです。第1次試験の5科目全てを合格していないと、受験資格はありません。

合格率と難易度

2019年のアクチュアリー資格試験では、第1次試験の合格率は数学が「23.9%」、会計・経済・投資理論が「22.1%」、年金数理が「17.0%」、損保数理が「16.2%」、生保数理が「32.0%」でした。第2次試験では、年金コースの1が「15.9%」で年金コースの2が「13.5%」です。

損保コースの1が「12.3%」で2が「16.8%」、生保コースの1が「13.5%」で2が「18.1%」でした。どの科目も難易度は高いです。第1次試験の科目別難易度は、低い順に「数学<会計・経済・投資理論<生保数理・損保数理<年金数理」とされています。

資格勉強の対策方法

アクチュアリー資格試験の対策は、どのように行えばいいのでしょうか。対策の具体例として、「過去問で勉強」「アクチュアリー講座」「アクチュアリー受験研究会」についてご紹介します。

過去問で勉強

今までの資格試験の過去問が日本アクチュアリー会から公開されています。冊子での販売はありませんが、ダウンロードやプリントアウトすることが可能です。過去問は、問題の難易度や傾向が分かるため、勉強しておくといいでしょう。

アクチュアリー講座

さまざまな資格サポート校やセミナーで、アクチュアリー講座が実施されています。アクチュアリー講座で勉強をすると、過去問などを取り入れながら、効率的に勉強ができるでしょう。講師に質問もでき、分からないところをすぐに解決しながら学べることがメリットです。

アクチュアリー受験研究会

アクチュアリーを目指している人や資格試験に合格した人が集まる情報交換サイトです。会員制になっていて、情報収集や意見交換ができます。対策方法の一つとして、登録しておくのも手段です。

アクチュアリーの転職・就活対策

アクチュアリーとしての転職や就活対策について気になるという人も多いのではないでしょうか。ここでは、転職の場合と、新卒の就活対策についてそれぞれ見ていきたいと思います。

転職の場合の対策

アクチュアリーの転職では、実務経験がある人の求人がほとんどなります。資格を取得した正会員であることを条件にしているケースと、準会員でも採用可というケースがあります。

アクチュアリーは需要に対して資格を取得している正会員の数が少ないため、資格取得をしていれば転職先で厚遇される可能性も高いと言えるでしょう。転職時にキャリアアップを狙って監査法人への転職にチャレンジする人もいます。

もし、まだ正会員でないものの転職を目指しているという場合は、継続的に学習をして正会員を目指すといった意気込みをアピールすると良いでしょう。

新卒の場合の対策

アクチュアリーを目指す新卒の人は、どのような就活対策をすればいいのでしょうか。具体的には、「就活生同士のコミュニティーに入る」「インターンに参加する」という対策をしていることが多いです。それらの詳細をご説明します。

就活生同士のコミュニティーに入る

就活生同士が集まるコミュニティーに入り、さまざまな情報を得ることが大切です。就活は書類や面接対策も必要ですが、情報収集も重要になります。アクチュアリーを目指す人が集まるコミュニティーもあるため、積極的に参加するといいでしょう。

インターンに参加する

保険会社や信託銀行のインターンに参加し、アクチュアリーの仕事を体験したり、見学したりするのも手段です。インターンに参加していると、書類や面接でもアピールできます。インターンで得たことを面接で話せば、好評価になりやすいです。

採用企業の傾向

転職や新卒といったケースを問わず、就職を目指す際には採用企業の傾向を把握することで、求められている人物像やスキルが分かってきます。それぞれの企業について研究をして、特徴や必要なスキルなどを理解するといいでしょう。求められている人物像に近いアピールができると、書類や面接選考でも好印象を得やすくなります。そこで、日系の生命保険会社と損害保険会社・外資系生命保険会社の傾向をご説明します。

生命保険会社(日系)

日系の生命保険会社は、アクチュアリー同士の結束が強い傾向です。総合職よりも地位や待遇が高くなっています。年金も担当することが多く、年金アクチュアリーになれる知識も必要です。

損害保険会社(日系)

日系の損害保険会社は、総合職と同程度の待遇です。仕事は基本的には保険に関する業務をします。

生命保険会社(外資系)

外資系の生命保険会社は、日系よりも給与や待遇が高くなります。成果主義になるため、アクチュアリー同士でポジション争いなどをする場合もあるでしょう。他のアクチュアリーを気にせず、自由に働けるのはメリットです。

選考の注意点

アクチュアリーの選考は、通常の選考とは異なる特徴がいくつかあります。そこで、選考での注意点についてご説明します。

総合職よりも開始が早い

アクチュアリーは総合職よりも選考の時期が早くなっています。よって、事前にアクチュアリーを目指すのか決め、情報収集も早めにするといいでしょう。選考時期を逃すと、アクチュアリーへの道は遠くなってしまいます。アクチュアリーになっている人やOBなどから話を聞き、早めに対策することが必要です。

数学の筆記試験がある

アクチュアリーにとって必要な知識の一つが数学です。選考では数学の筆記試験があるため、大学教養課程の知識を習得できているといいでしょう。会社によっては、プログラミング知識も必要です。論理的思考力の確認をするため、論理パズルなどをする会社もあります。

面接官が数理に詳しい

総合職の面接は、上層部や人事部が行いますが、アクチュアリーの選考ではその会社に所属するアクチュアリーが面接官になります。よって、話す内容は専門的になる可能性が高いです。また、難しい言葉を並べてしまうと、アクチュアリーに指摘される場合もあります。

面接官になるアクチュアリーは、就活生が持っている知識だけでなく、性格や適性・ポテンシャルなどもみているため、注意するといいでしょう。

アクチュアリーとクオンツの違い

アクチュアリーと似た職種として「クオンツ」があります。クオンツとは、専門的な数学的手法を使い、市場分析をする人のことです。アナリストやトレーダー・ファンドマネージャーの仕事をサポートしています。金融商品の開発や考案をするのはアクチュアリーと同じですが、クオンツは主に投資戦略を考えていて、年金や金融に力を入れていると言えるでしょう。

業界全体での採用人数

アクチュアリーやクオンツの業界全体の採用人数は、約30人とされています。アクチュアリーは約10人~20人、クオンツは10人程度です。また、採用人数は景気に左右されることもあります。

学歴・バックグラウンド

アクチュアリーは、数学の知識が必要です。必須条件にはなっていませんが、バックグラウンドとして、理系大学や大学院・経済学部などで、数学や統計の知識を学んでいるといいでしょう。一方、クオンツは数学や物理・金融工学・情報工学などを学び、博士課程を持っている人が多い傾向です。

求められるスキルや心構え

アクチュアリーは分析できる能力だけでなく、ビジネスマンとしてコミュニケーション能力が必要になります。また、時間や制約によって最適な答えを見つける柔軟性も重要でしょう。数学の知識も必要ですが、さまざまなことに対応できるスキルや心構えがいるのです。一方、クオンツは主に研究や分析をしていて、最適な答えを出せる能力が必要になります。

アクチュアリーの将来性

アクチュアリーの将来性は、比較的安定していて、需要も高いとされています。国際資格も取れると、グローバルに活躍できるでしょう。これから、アクチュアリーの将来性について解説します。

アクチュアリーは安定性が高い職業

アクチュアリーは安定性が高い職業とされています。その理由として、アクチュアリーとしての採用枠が少ないからです。採用された人数も少ないため、会社からは待遇もよくなるでしょう。また、アクチュアリー候補生として採用された場合も、会社がしっかりと育成してくれます。今後も仕事がなくなる可能性は低く、平均給与も高いアクチュアリーは安定性があるのです。

増え続けるアクチュアリー需要

アクチュアリーはさまざまな会社から需要が増えています。リスクマネジメントや年金など、保険業務以外で活躍している人も多いです。年々、リスクが多様化し、説明責任も重要になっています。それらのリスク管理なども含めて、アクチュアリーは需要が高まっているのです。

国際資格CERAでグローバルで活躍も

「アクチュアリー会」の正会員には、国際資格「CERA」の受験資格が与えられます。CERAとは「Chartered Enterprise Risk Actuary」で、エンタープライズ・リスクマネジメントに関する国際資格です。組織や会社で起こる可能性のリスクを把握し、全体で対策をとる時に活躍しています。つまり、会社の経営で、重大な役割を担っているのです。国際資格になるため、グローバルで活躍したい時にはCERAに挑戦してみるといいでしょう。

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