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データサイエンティストの採用が難しい理由は?成功の秘訣や採用方法も紹介

データサイエンティスト、機械学習エンジニアを確保したい企業が年々増加しており、データサイエンティストの中途採用は難易度が高い状況が続いています。新卒採用や第二新卒から理系出身者を採用したり、未経験者を教育するなど社内育成による人材確保の手段をとる企業も増えています。

この記事では、そのようなデータサイエンティスト採用が難しい理由、具体的な採用方法、採用担当者や面接官の準備、Kaggle採用を実践する企業事例などについて紹介します。

データサイエンティスト採用が難しい理由

IT化が進む現代ビジネスにおいて、優秀な技術者やデータ分析官を採用する事は企業にとって重要なタスクであると言えるでしょう。特に企業が抱える情報を管理・分析し課題解決や戦略立案に取り組むデータサイエンティストは確保しておきたい人材として需要が高まっています。しかし、採用市場においてデータサイエンスのスキルを保有する転職希望者の供給は少なく、経験者の採用は一筋縄では行かないという状況が続いています。データサイエンティストの採用が難航する大きな理由としては以下の3点が挙げられるでしょう。

転職市場に出てくる経験者の数が少ない

ひとつめの理由としてデータサイエンスを実務で利用する企業や組織が限られているため、データサイエンティスト経験者がそもそも少なく、求職者として転職市場に出てくる人材が少ないという点があげられます。ここ数年のAI技術の浸透やデータサイエンティストブームにより、以前に比べ求人数や働く人数は増加しているものの、まだまだ実務経験のある人材が不足している状況です。

実際には「SIerやIT企業で機械学習、ディープラーニング実務を経験したエンジニア」や「ゲームやWeb系企業でデータアナリスト業務を経験した分析官」など各種業務の実務経験者は年々増えており、転職サイトなどにも登録していることは間違いありません。しかしながら、企業の採用ニーズに対して、人材の供給は圧倒的に不足しているのです。

理系の大学や大学院で統計学の専門教育を受けた人材ともなれば尚更貴重な存在と言えるでしょう。さらに、職務経験を積んだ優秀なデータサイエンティストは採用した企業が中々手放しません。また、そのような人材にはダイレクトリクルーティングで好待遇のオファーが直接届くという事もあり、通常の採用市場に出てくることが少ないのです。

スキルや業務経験などの要件が合わず採用に至らない

データサイエンティストという職種は、データアナリストや通常のエンジニアよりも期待されるスキル要件が高い点も採用を難しくしています。人材募集の際に高度なスキルや実務経験を求める傾向も高いデータサイエンティストですが、求人募集に対して応募は集まることが多いです。ただし、募集要件とのギャップから書類選考や面接で不採用となってしまい、採用選考を通過する人材が少ない点も問題となっています。

そのような求職者と採用側のミスマッチについて、そもそもデータサイエンティストを志望する求職者の多くが実務経験を備えていないという点に加え、採用側でデータサイエンティストに求めるスキル要求が高すぎるという点も両者の乖離をひろげています。一般社団法人データサイエンティスト協会の定義する「ビジネス力」「データサイエンス力」「データエンジニアリング力」を兼ね備えた「業界を代表するレベル」や「棟梁レベル」のデータサイエンティストを採用するのは骨の折れる仕事でしょう。

一方で、企業側としても単純に中途採用のため即戦力が欲しいという理由以上に切実な背景もあります。統計や機械学習の実務経験者が少ないという問題は、採用する側の企業においてさえ課題となっています。そのような企業では、データ分析やアナリティクスの部門や部署が整備されておらず、新しく入社した人材にデータ分析の組織運営やマネジメントについても期待して採用を考えているという事情もあるのです。

エンジニア職は実力社会と言っても過言ではありません。そのため、豊富な分析経験やチームメンバーのスキルレベルを向上できるデータサイエンティストを採用したいというのが多くの企業の本音と言えるでしょう。

しかし前述の通り、データサイエンティスト市場は経験者不足という状況が続いているので、そうしたハードルの高い求人に見合うだけの人はなかなか集まらないと言えます。また、条件を満たす人材に内定を出したとしても、そのような人材は複数の企業が欲しがる人材です。最終的な条件交渉や待遇で他社に負けて採用までに至らないというケースも多いのです。

採用担当者や現場のエンジニアがデータサイエンスを理解していない

採用市場の状況だけではなく、企業側でのデータサイエンスに対する理解度もデータサイエンティストの採用事情に大きく影響を及ぼしています。求職者と求人のミスマッチが起こる原因が、採用担当者や現場エンジニアの理解不足に起因することもあるのです。求人を募集する際の待遇面を魅力的にするには、データサイエンスの仕事やスキルに応じた適切な年収を提示する必要がありますし、自社の課題やビジネス上の目的にそった求人内容を仕上げる必要があります。

また、データサイエンティストが取り扱う業務内容は幅広く、採用後に適材適所を心がけなければせっかく採用した人材を適正に活用する事が出来ません。場合によっては、データサイエンティストを採用するのではなく、機械学習エンジニアやデータアナリストを採用したほうがよいこともあります。

データサイエンティトは様々な知識・スキルを身に付けていますが、それでも全ての業務案件をカバーするのは難しいと言えるでしょう。したがって、企業の採用担当者や現場のエンジニアがデータサイエンスに対して正しく理解していなければ、自社に必要な知識・スキルを持っているデータサイエンティストを見極める事が難しいのです。

データサイエンティストを採用する前に

データサイエンティストは企業において重要な役割を担うポストであり、人材を確保出来ていない企業であれば採用を急ぎたいところでしょう。しかし、失敗を避けるためにもあせりは禁物です。闇雲に採用活動を行うと優秀な人材を確保出来ないばかりか、求人に対して応募すら集まらないといった事態を招きかねません。ここではデータサイエンティストの採用活動を行う前に心がけておきたいポイントを見ていきましょう。

採用目的や人物像を明確化する

採用活動を行うにあたって、まずは「採用の目的」と「データサイエンティストに求める人物像」を明確にしておきましょう。自社でデータを収集・分析した上でどのような活路を見出したいのか、AIモデルの構築に専念できるのか、もしくはデータベースの管理・構築から業務にあたってもらいたいのか、プレゼンテーションやサジェスト業務をメインに活躍してもらいたいのかなど、採用の目的は企業によって様々です。また、データサイエンティストは会議への出席や他部署の人間とやり取りする機会も多いので、コミュニケーション能力も重視されます。統計解析の知識やITスキルだけではなく、円滑なコミュニケーションが可能かつ自社の社風にマッチした人物像を明確にしておく事も大切なのです。

会社に魅力がないと人材は定着しない

たとえ優秀なデータサイエンティストを採用出来たとしても、その人材が自社で働く魅力を感じていなければ長期に渡って働いてもらう事は難しいでしょう。データサイエンティストをはじめとするエンジニア職は買い手が豊富であり、本人に実力があればフリーランスとして活動する事も可能です。「この会社に採用されてよかった・この会社で働きたい」と感じてもらうためには、採用活動前に人材の待遇面についてよく見直しておく事が重要と言えるでしょう。また、仕事に「やりがい」を感じる事は働くための大きなモチベーションになります。本人の希望を最大限に汲み取って技術を活かせる業務に配属するというのも大切なポイントです。

業務に集中できる環境作りを

マクロな視点で見れば、「データサイエンティストが業務に集中出来る環境」を会社全体で作り上げるという事も重要になってくるでしょう。新卒や中途で新規採用した社員は、新しい環境で業務に取り掛かる事になります。そんな中で採用された会社が「社内のルールが曖昧」「上司や先輩が仕事に理解を示さない」「古い習慣をいつまでも引きずっている」というような環境だと、仕事のモチベーションやパフォーマンスに良くない影響が出てしまうのです。また、こうした組織的な面だけではなく、データサイエンティストが仕事を行う上で適切にデータを扱える設備環境を整えておく事も大切になります。ソフト・ハードを問わず、予算の範囲内で出来るだけ高いスペックや最新のバージョンを用意しておきましょう。

データサイエンティスト採用を成功させる秘訣

データサイエンティストは比較的新しいポストなので、採用に際しては担当者がその職種に対して正しく理解しておく事が重要となります。データサイエンティストの採用に成功するためのキーポイントは、大きく分けて以下の3点です。

今ある技術よりも「伸びしろ」を重視する

優秀なエンジニアの中には他業種から転職して実務経験を積んだという人も少なくありません。どちらかと言えば若手のうちから優秀で何でも仕事をこなすエンジニアという存在が稀なのです。特に、データサイエンティストのように比較的新しい職種ではこれからノウハウを積み重ねるという人材が多いでしょう。そのため、データサイエンティスト採用では未経験層の採用も視野に入れるべきでしょう。そのようなポテンシャル枠での採用活動時には「人材がその時点で持っている知識・技術」よりも「将来的な伸びしろ」を重要視するのがポイントです。また、入社した人材を効率的に育成するためのプログラムを用意しておけば採用した人材を成長させられるだけでなく、今後の入社希望エンジニアを増やす事も期待出来ます。

採用計画や採用プロセスにエンジニアも関与する

多くの場合、企業の採用活動は人事担当者が担っているでしょう。しかし、エンジニア職のように専門性が高い業務にあたる人材を選定するにあたっては、現場の意見を取り入れる事が成功の秘訣です。人事担当者だけでは自社のデータ管理・運用業務に必要となる知識やスキルを正確に判断するのは難しいでしょう。そこで、こうしたケースでは現場で活躍している自社のエンジニアに採用計画・採用プロセスへ参加してもらうのが効果的です。求人票の作成から面接への同席、最終的な人材選考など採用活動全体に関与してもらうのが良いでしょう。

能力が存分に発揮できる人事・評価制度

実力社会であるエンジニア業界では、企業が適切な人事・評価制度を整える事が求められます。エンジニア職は高度な技術や知識を必要とされる反面、裏方として企業活動を支える業務が多いです。そのため、エンジニアの業務成果を企業側が見逃してしまい適切に人材評価を行えていないというケースも少なくありません。データサイエンティストなどの専門職は業種別で見ても比較的給与待遇が良く、それをやりがいの1つとしている人も居ます。採用したデータサイエンティストが能力を最大限に発揮出来るようにするには、給与体系・キャリアパス・人材評価制度をしっかり整備しておきましょう。

採用担当者や面接官が準備しておきたいこと

採用担当者や面接官は一般的にエンジニアのような専門的知識や技術を備えていないでしょう。しかし人材採用にあたっては大きな影響を及ぼすポジションであるため、採用活動に際しては入念な準備を整えておく必要があります。

スキルを見極めるための質問を用意しておく

採用担当者や面接官が応募者を選別するためには、やはり面接での質問が大きなポイントになります。専門知識や技術を持ち合わせていない担当者でも、応募者のスキルを見極めるための質問を予め用意しておく事で効果的に採用活動を行えるでしょう。例えば自社の業務に必要となるプログラミング言語に関しては「どの程度習熟度があるのか(資格の有無など)」「どのような実績があるか(製作物や職歴など)」といった質問が有効です。また、データサイエンティストには高いコミュニケーション能力も要求されるので「好きなこと・嫌いなことは何か」「普段、周囲とコミュニケーションを取る際に気をつけている事は」といった質問が話題を広げやすく、応募者のコミュニケーション能力を見極めやすいと言えるでしょう。

書類選考時に気になった技術は勉強しておく

ほとんどの場合、企業の採用活動においては面接試験の前には書類選考を設けているでしょう。その際、応募者の書類に見慣れない技術やスキル・気になった資格などがあれば採用担当者が予め調べておく事も大切です。書類選考時にどんなスキルを持った人材なのか判断出来るのはもちろん、面接試験においてもその技術や知識に関して積極的に質問しやすくなります。珍しい技術や知識を持っている人材は他の応募者とは違った魅力があるので、採用する側としても差別化して選考しやすいのです。

データサイエンティスト採用の具体的な方法

データサイエンティストの採用市場は人材不足が続いているため、企業としては積極的に採用活動の幅を広げていく必要があると言えます。ここでは、データサイエンティストを採用するための具体的な方法をいくつか見ていきましょう。

リファラル採用

データサイエンティストのような採用市場にあまり人材が流れていない職種を採用するには、「リファラル採用」が有効だと言われています。リファラル採用とは、既に自社で社員として働いている人に人材を推薦・紹介してもらうという方法です。採用市場とは別のアプローチで人材採用出来る他、大々的な採用活動を行う必要がないのでコストを削減出来るといったメリットもあります。ただし、そもそもデータサイエンティストが社内にいないと施策として機能しません。また、使い方を間違えるといわゆる「コネ入社」に近い形になるので社内の人間関係やパワーバランスには細心の注意を払う事が必要です。

ダイレクトリクルーティング

ダイレクトリクルーティングとは、企業が積極的に人材へと直接アプローチしてスカウトする採用方法です。ヘッドハンターを通じてオファーを打診することもあります。人材データベースやSNS、企業説明会のようなイベントを通じて発見した人材へアプローチをかけるのが一般的となっています。人口減少で働き手が不足する中で、IT化によって発達した情報網を頼りに企業が能動的に行う事の出来る貴重な採用方法と言えるでしょう。

人材紹介・転職エージェント

就職・転職活動を行う応募者が利用する事の多い人材紹介・転職エージェントですが、採用活動を行う企業にとってもこうしたサービスを利用するのは有効な手段です。一般的には採用が決まった場合のみ手数料を支払う料金設定になっているので、無駄な費用を抑えて採用活動を行う事が出来るというメリットもあります。ただし、一人あたりの採用コストは比較的高めになるのでその点には注意しておきましょう。

転職サイトなど求人広告の掲載

「待ち」の採用活動として代表的なのが、転職サイトなどへ求人広告を掲載するという方法です。データサイエンティストのように比較的専門性の高い職種を募集する際には、エンジニアに特化した転職サイトに広告を出すのが良いでしょう。広告費用が必要になるので自社の採用時期と広告掲載期間に折り合いを付けて適切に活用する事が重要です。あくまで「待ち」の採用方法なので、人材が不足しているデータサイエンティストを採用するためには他の採用方法を併用するのが望ましいでしょう。

転職フェア・合同説明会

転職フェア・合同説明会に出展するというのはメジャーな採用活動ですが、こうした基本的な活動も怠らないようにしましょう。就職・転職活動者はまずこうしたフェアや説明会に参加してから企業選びを始めるというケースも多く、出展していないと優秀な人材がまずこの段階で他社に流れてしまう可能性があるのです。就活生にしてみても、こうした場に出展していない企業はそもそも求人募集がないと思い込んでしまう事も少なくありません。採用のチャンスを増やすためにも、基本的な採用活動は押さえておきましょう。

Kaggle採用を実践する企業の事例紹介

データサイエンティストの採用を積極的に行っている企業に間では、「Kaggler(カグラー)」というキーワードが話題を呼んでいます。Kaggleとはアメリカで開発されたプラットフォームであり、世界中の企業や研究者が「Kaggler」としてコンペティションに参加する事が可能です。ここでデータサイエンティストや研究者が調整したアルゴリズムは「モデル」としてランク付けされ、最も適したモデルを提示した人には企業や研究者から賞金が支払われます。日本ではこのKaggleでの実績を採用活動や自社のデータサイエンティスト育成に取り入れる企業が増えているのです。

DeNA

大手インターネット関連企業であるDeNAでは、Kaggleへの参加に「業務時間の20〜100%を使用する事を認める」という取り組みが行われています。「Kaggle社内ランキング」という制度を設けて採用時にランクBからSSまでの4段階に振り分けを行い、ランクに応じてKaggleに充てる業務時間が決まる仕組みです。データサイエンティストの自主的な取り組みを促し、自社内で優秀な人材を育成するという事を目的としています。

Sansan

クラウド名刺管理サービスを展開するSansanでも、Kagglerを社内の重要なポストに配置する動きが強まっています。2016年に立ち上げたDSOC(Data Strategy & Operation Center)と呼ばれる専門チームには、Kaggleグランドマスター2人を含む複数人のKagglerが在籍しているのです。Kaggleでの実績を参考に他社や研究機関からの引き抜きも積極的に行っています。

ヤフー

大手検索エンジン運営しているヤフーでは、2015年からエンジニアスペシャリストコースと呼ばれる初年度年収650万円以上というポストを用意して採用活動を進めています。そして、このコースの応募要件には実務・起業経験の他にも「Kaggleでの上位10%入賞者」という条件が組み込まれているのです。

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